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横浜地方裁判所 平成元年(ワ)894号 判決

原告 滝沢力

右訴訟代理人弁護士 岸哲

同 青木孝

被告 テイ・エス・ケイ・コーポレーション株式会社

右代表者代表取締役 近藤明也

被告 近藤明也

同 砂川徳夫

主文

被告テイ・エス・ケイ・コーポレーション株式会社は、原告に対し、四〇五六万九一七三円及びこれに対する平成元年五月一六日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

被告近藤明也及び被告砂川徳夫は、原告に対し、各自一五〇〇万円及びこれに対する被告近藤明也については平成元年五月一六日から、被告砂川徳夫については同月一四日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告の被告近藤明也及び被告砂川徳夫に対するその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、被告テイ・エス・ケイ・コーポレーション株式会社と原告との間に生じた費用はこれを被告テイ・エス・ケイ・コーポレーション株式会社の負担とし、原告と被告近藤明也及び砂川徳夫との間に生じた費用は、これを三分し、その二を原告の、その余を被告近藤明也及び被告砂川徳夫の各負担とする。

この判決は、第一、二項につき、仮に執行することができる。

事実

第一申立

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自四〇五六万九一七三円及びこれに対する被告テイ・エス・ケイ・コーポレーション株式会社(以下「被告会社」という。)及び被告近藤明也(以下「被告近藤」という。)は平成元年五月一六日から、被告砂川徳夫(以下「被告砂川」という。)は同月一四日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(被告近藤及び被告砂川)

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二主張

一  請求原因

1  当事者

被告会社は、昭和五六年四月一五日設立された貿易コンサルタント業務、海外投資コンサルタント業務、香港商品取引所における金・大豆・砂糖・綿花の先物取引の受託業務、米国シカゴ・マーカンタイル取引所における国際通貨の先物取引の受託業務等を目的とする株式会社である。

被告近藤は、被告会社の代表取締役、被告砂川は、被告会社の取締役である。

原告は、被告会社の商品取引の顧客である。

2  委託契約

原告は、被告会社と昭和五七年一一月初旬ころ、香港の先物取引等の外国商品取引所における上場商品の売買取引を行う委託契約を締結した。

3  金員の支払い

原告は、被告会社に対し、右契約に基づく委託保証金として昭和五七年一一月一〇日から昭和五九年一月二四日までの計一七回にわたり一五〇〇万円の支払いをした。

4  被告会社の委託業務

被告会社は、右契約の委託に基づき、別表(二)〈略〉のとおり、(別表(一)は欠番)先物取引をなし、右取引によって、原告は、二五五六万九一七三円の利益を受け得たはずのものである。

(商品ダイズの場合の計算方法は、次のとおりである。)

{売成立値段(香港ドル)-買成立値段(香港ドル)}×枚数×五〇〇=売買差金(香港ドル)

一枚とは六〇キログラム五〇〇袋をいう。

成立値段は六〇キログラム一袋の値段(香港ドル)

売買差金×換算レート=円換算(円)

円換算(円)-手数料(円)=差引損益(円)

(商品YENの場合の計算方法は次のとおりである。)

{売成立値段(ポイント)-買成立値段(ポイント)}×枚数×一二五〇ドル=売買差金(ドル)

一¢(ポイント)=一二五〇ドル

売買差金(ドル)×換算レート=円換算(円)

円換算(円)-手数料(円)=差引損益(円)

しかし、被告近藤及び被告砂川は、原告及び被告会社が右契約を締結しているのを知りながら、共謀して、実際には右先物取引をなさず、原告に対し、二五五六万九一七三円の得べかりし利益相当額の損害を与えた。

また、原告は、被告近藤及び被告砂川の共謀により詐取された第三項記載の委託保証金の返還を受けていないから、右一五〇〇万円の返還を求める。

被告会社は、代表取締役及び取締役の前記行為のため、損害賠償責任を負う。

よって、原告は、被告らに対し、各自右損害金四〇五六万九一七三円及びこれに対する、被告会社及び被告近藤については不法行為の日の後である平成元年五月一六日から、被告砂川については同じく同月一四日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

(被告近藤)

1 請求原因1及び2の事実は認める。

2 同3の事実は否認する。

3 同4の事実中、計算方法は認め、その余は否認する。

(被告砂川)

請求原因1の事実は認める。

三  抗弁

(被告砂川)

破産による免責

被告砂川は、昭和五九年一二月東京地方裁判所八王子支部に対し、自己破産の申立をし、昭和六〇年二月五日破産同時廃止となり、昭和六一年一二月一日免責許可決定がなされ、確定している。

四  抗弁に対する認否

認める

ただし、本件は、請求原因のとおり、破産者が悪意をもって加えた不法行為に基づく損害賠償債務であるから、破産法三六六条ノ一二第二号により免責の対象とはならない。

五  再抗弁

被告砂川の免責の抗弁は、破産法三六六条ノ一二第五号の破産者が知って債権者名簿に記載しなかった請求権に該当するため、免責とはならない。

六  再抗弁に対する認否

認否なし

第三証拠〈略〉

理由

(書証の成立の判断は、特に摘示しない。)

一  被告会社は、請求原因事実を明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。

そうすると、原告の被告会社に対する本訴請求は理由がある。

二  被告近藤及び被告砂川の関係で請求原因事実を判断する。

1  請求原因1の事実は、原告と被告近藤及び被告砂川間に争いがない。

2  同2の事実は、〈証拠略〉により認められる。

3  同3の事実について判断する。

〈証拠略〉及び弁論の全趣旨によれば、原告は、次のように、前記取引のために、当初一、二回は、被告会社の取締役(名刺上は専務取締役)であった被告砂川に、その後は、被告会社の管理部長兼営業本部長の伊藤義昭(以下「伊藤」という。)に対し、左記日時ころ左記金員を交付したことが認められる。なお、左記の日時は、被告が発行した預かり証等の日付によるものであり、実際の金員の交付は、左記の日時よりも二、三日程度遅れることもあった。

昭和五七年一一月一〇日 一〇〇万円

同月二四日 一〇〇万円

同日 一〇〇万円

昭和五七年一二月一七日  五〇万円

同日 一〇〇万円

昭和五八年一月一二日  二〇〇万円

同年二月八日   一〇〇万円

同月二六日  二〇〇万円

同年三月一六日   三〇万円

同月三一日  一〇〇万円

同年五月一九日  一〇〇万円

同年六月三日    八〇万円

同年七月七日   一〇〇万円

同年八月一一日   三〇万円

同年一〇月二六日  五〇万円

同年一一月七日   五〇万円

昭和五九年一月二四日   一〇万円

4  同4の事実について判断する。

(一)  前認定の事実、〈証拠略〉及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

原告は、前記のように被告砂川から勧誘を受け、本件の取引を行うこととし、申込証拠金名下に前記金員を交付した。

被告砂川は、右基本契約については、被告会社の代表取締役である被告近藤に報告をしていた。

ところで、前記契約においては、申込証拠金は、当初一枚二〇万円であり、その後、上がったが(その内容は明確ではない。)、第一回の取引の際、原告の支払いは、昭和五七年一一月一〇日であったが、取引は、同月五日の買いと同月八日の売りであり、取引が終わった後に支払いがなされており、かつ、その際も、原告は、一枚一〇万円の証拠金しか支払っていなかった。右は、被告砂川からの話で、申込証拠金の額が通常の半額であり、その差額は、被告砂川が処理する代わりに、利益は被告砂川と折半するという話を原告が受諾したものであり、そして、申込証拠金の支払いの遅れも、被告砂川が、後で金を入れてもよいといったため、取引後に支払ったものであった。しかし、第一回の取引後には、原告に利益が生じていただけであるから、申込証拠金を提出する意味はなかった。

その他にも前記金員交付日(実際には右交付日より遅れることもあったのは前記のとおりである。)と別表(二)記載の取引日と対比すると、必ずしも、取引日と連動しているとは思われないものがある。

ところで、原告は、取引の都度被告会社から売買取引報告書及び計算書の交付を受けたが、その差引損益については、次のとおりの内容が記載されていた。

別表(二)1         五六万六六五〇円

別表(二)2        一五四万八五五三円

別表(二)3    マイナス二六〇万八〇〇〇円

別表(二)4        一三三万一八四〇円

別表(二)5         二六万〇六八五円

別表(二)6〈1〉 マイナス一五八万四〇〇〇円

〈2〉   マイナス八万一五〇〇円

〈3〉  マイナス一一万八五〇〇円

別表(二)7〈1〉      五五万五九二〇円

〈2〉  マイナス三三万一七二〇円

別表(二)8        一二二万四九六〇円

別表(二)9         一九万五八〇〇円

別表(二)10   マイナス八七六万四〇〇〇円

別表(二)11〈1〉    四五九万六八〇〇円

〈2〉    一五九万八七二〇円

別表(二)12  マイナス一九四八万二〇〇〇円

別表(二)13〈1〉    マイナス二二〇万円

〈2〉は未精算

しかし、原告が昭和五九年に入り、被告会社と連絡がつかなくなったため、その取引に疑問を持ち、先物取引についての正規の機関である国際商品取引協会に照会して、調査した。右の結果明らかになった前記取引日に関する香港期貨交易所における先物取引(黄豆)の相場表をもとに、売買月日、場節、枚数を被告会社の売買取引報告書及び計算書を前提に成立値段を右相場表から拾って計算し直した別表(二)に記載の差引損益(マーカンタイル取引所分については、日本経済新聞ニューヨーク支店に問い合わせた。)と対比すると、別表(二)1、2の分は同一であるが、その後の分は、前記のように、原告にとって不利益になるように異なっている。

以上の事実が認められ、〈証拠略〉は措信できず、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(二)  以上の事実に徴すると、現実に被告会社が取引をしていたと認めることには躊躇を感じる。そして、現実に被告会社が取引しているか否かはともかく、現実にその取引により、本来であれば、利益が出ているにもかかわらず、実際の取引結果と大きく異なり、損失がある旨を報告をしていたことになり、右は、実際の取引の有無にかかわらず、不法行為というべきである。

そして、被告近藤及び被告砂川のその会社における地位、前述の役割からみて、両者とも、前記のような本来の取引と異なる差引損益の計算をし、顧客に報告した事情を知っていたことは明らかであるから、取引の有無にかかわらず、前記事実に関与していたものであり、右責任を負うべきである。

しかし、その損害額につき、原告は、申込証拠金を本来必要な額を提示しておらず、かつ、被告砂川がその部分を補完するかわりに、その利益を折半する等と約束していたものであり、また、取引の決裁後に、申込証拠金を支払うなど不正常な取引を行っていたものであり、右のような場合、得べかりし利益を損害と認めるのは、正常な取引がなされていないにもかかわらず、顧客である原告にその利益を認めることになり、相当ではないから、その損害は、前記のように提供した申込証拠金一五〇〇万円の限度でのみ認められるというべきである。

三  被告砂川の抗弁について判断する。

職権による調査によれば、被告砂川は、昭和五九年一二月東京地方裁判所八王子支部に対し、自己破産の申立をし、昭和六〇年二月五日破産同時廃止となり、昭和六一年一二月一日免責許可決定がなされ、確定していることが認められる〈証拠略〉。

ところで、破産法三六六条ノ一二第二号は、破産者が悪意をもって加えた不法行為に基づく損害賠償債務は、免責の対象とはならない旨規定しているところ、被告砂川の債務は、前記認定のように、右そのものであるから、免責の対象とはならないものであり、被告砂川の抗弁は失当である。

四  以上のとおり、被告会社に対する原告の本訴請求は、すべて理由があるから認容し、被告近藤及び被告砂川に対する原告の本訴請求は、各自損害金一五〇〇万円及びこれに対する被告近藤については、不法行為の日の後である平成元年五月一六日から、被告砂川については同じく同月一四日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないので棄却し、訴訟費用については民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言については同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 宮川博史)

別紙〈省略〉

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